卵が一日一個までというのは間違い
先日ナッツが素晴らしい万能食であるという記事を書きました。
私達がナッツ以外で考える万能食と言えば、思い浮かべるもう一つの食材は卵ではないでしょうか?卵はヒヨコが生まれてくるためのすべてのエネルギーが詰まった栄養の宝庫であることは議論の余地がありません。
しかしナッツと違い、卵はコレステロールの観点から長い間一日一個以上食べるべきではないといわれていました。しかし近年その制限が正しいのか疑問が持たれるようになってきています。
何故以前は一日一個と言われたのか?
厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準」によると、2010年度版まではコレステロールは成人男性750㎎成人女性600㎎が上限とされていました。
他の食べ物からコレステロールを摂取することも考えて「卵は一日一個まで」というイメージがあったのはこの指針が大きな理由だと考えられます。
しかし現在ではこの上限は撤廃され、同時に卵一日一個説も無くなってしまいました。
日本卵協会は一日2個をすすめているけれど?
日本卵協会は一日に食べてよい卵の上限は決められていないとしながらも、何故か一日2個を食べることをすすめるキャンペーンをしています。
Q1 卵は一日何個まで食べても大丈夫ですか?
A:結論的には個数に制限はありませんが、全国鶏卵消費促進協議会では「私がこんなにキレイなのは1日2個のたまごのおかげ」と1日2個を勧めるキャンペーンを実施しています。もしも卵を沢山食べる際は、一日の食事バランスに配慮して野菜も沢山食べることをおすすめします。
引用元:日本卵協会 http://www.nichirankyo.or.jp/qa/eiyou.htm
卵の摂取量と循環器疾患の関係にはあらゆる説がある
卵の食べ過ぎはコレステロール値に関係するのか?
コレステロールには善玉と悪玉があり、卵の食べ過ぎで議論されるのは悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールです。
LDLコレステロールが多くなりすぎると、血管にコレステロールが溜まってしまい、詰まりやすくなっていまいます。その結果、心筋梗塞などの病気が発生しやすくなります。
では血中コレステロールはどのように決まるのでしょうか?血中コレステロール値を計算するにはKeysの式やHegstedの式と呼ばれる計算式があります。この式は難解なので記載は省きますが、この計算上で使うのはコレステロールの摂取量だけでなく、飽和脂肪酸の値も必要になってきます。要するに血中のコレステロールに関係している数値はコレステロール摂取量だけでは無いのです。
多くの論文で卵の摂取量と心臓病等の関連が否定されている
厚生労働省が発表している下記の「日本人の食事摂取基準」2020年度版の記載によると、卵摂取源と心筋梗塞発症率との間に有意な関連は否定されています。
コレステロール摂取量の過剰摂取は循環器疾患の危険因子となり得ると考えられ、幾つかの疫学研究がその結果を報告している。個人や集団ごとに異なるものの、コレステロール摂取源の主なものは卵であり、そのために、疫学研究ではコレステロール摂取量の代わりに卵摂取量や卵摂取頻度を用いた研究も多い。このような方法を用いたコホート研究の結果をまとめたメタ・アナリシスは、卵摂取源と心筋梗塞発症率との間に有意な関連は認められなかったと報告している
※引用 142ページ目の 8─3─1─1 生活習慣病との関連
また2020年にBMJに掲載された論文では、1日1個の卵の摂取は心臓病や脳卒中等のリスクと関連がなかったことを報告しています。
一方で卵摂取量と循環器疾患発生率を関連付ける論文もある
下記は同じく2020年度の厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準」から引用した箇所になります。こちらでは卵摂取量と循環器疾患発生率に関連があると結論付けています。
アメリカで行われた六つのコホート研究のデータをプールして解析した研究では、コレステロール摂取量及び卵摂取量と、循環器疾患発症率及び総死亡率の間に、いずれも有意でほぼ直線的な正の関連が観察されている。
引用元※ Zhong VW, Van Horn L, Cornelis MC, et al. Associations of dietary cholesterol oregg consumption with incident cardiovascular disease and mortality. JAMA 2019;321: 1081─95
参考URL※
Associations of Dietary Cholesterol or Egg Consumption With Incident Cardiovascular Disease and Mortality – PubMed (nih.gov)
厚生労働省の指針
上記で引用してきた厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準」は5年に一度改定されているのですが、この中で示されているコレステロールの上限値にはこれまでに何度か改定がありました。
冒頭で述べたように2010年度版までは成人男性750㎎成人女性600㎎が上限とされていました。しかし2015年度版からはコレステロールの上限値が撤廃されました。
これはコレステロールをいくらとっても大丈夫だという方針に変わったということではなく、血液中のコレステロール値に与える影響には個人差が大きく、コレステロールの摂取量は低めに抑えることが好ましいものと考えられるものの、目標量を算定するのに十分な科学的根拠が得られなかったため、目標量の算定は控えた。ためです。
2020年度版からは、同じ理由から上限値は撤廃されたままですが、脂質異常症を有する者及びそのハイリスク者においては200 mg/日未満が望ましいという指針が示されることになりました。
参考(142,143ページ参考)
日本人の食事摂取基準 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
まとめ
上記であげた、卵の摂取量は循環器疾患に関係しないという論文が掲載されたのも、関係するという論文が掲載されたのも、どちらもインパクトファクターの高い世界的に有名な医学誌(BMJとJAMA)です。
※インパクトファクターとはその雑誌の影響度や引用された頻度を測る指標で、これが高いほど掲載される難易度の高い一流の医学誌となります。
つまりは卵の一日上限摂取量については決定的な結論が未だ出ていないという状況です。ですから厚生労働省も循環器疾患予防(発症予防)の観点からは目標量(上限)を設けるのは難しいと考え、上限を設定しないことにしたようですが、しかしながら、「これは許容されるコレステロール摂取量に上限が存在しないことを保証するものではないことに強く注意すべきである。」と結論付けており、滅茶苦茶沢山食べても絶対安全だとは保障しないよ、と注意喚起してるわけです。
脂質異常症を有する者及びそのハイリスク者においては200 mg/日未満が望ましいという指針も出ているので、例えば私は正常範囲ですがコレステロール値が高めになりやすい体質なので卵はせいぜい2個までにしています。
ですから皆さんも万能食の卵ではありますが、自分のコレステロール値を知ったうえで自分なりの上限値を決めて食べることをお勧めします。
卵は美味しく栄養価も高い素晴らしい食品ですから、あまり心配しすぎるのはよくないですが、沢山食べたい人はあらかじめ自分のコレステロール値を理解しておくことが重要でしょう。