料理と化学と浸透圧にたまに見られる誤解が気になる
今日は料理の話をしたいと思います。料理の話と言っても少し理系に偏った話です。料理の話と言うより化学の話と言う方が正確かもしれません。
料理サイトを見ているとたまに化学的に間違った説明をしていたり誤解を受ける表現をしていたり、理系の人間からするともやもやが残るものがあります。結構どや顔で、料理は化学だ!と書いてあるサイトほど、ちょっと待ってその表現は変じゃない?と言うものがあったりします。
料理をする時は浸透圧を意識するという教え
私は中学生くらいの頃でしょうか?母が料理をするのを横で眺めていた時に、彼女が、料理は浸透圧を考えながらやると理解しやすいと説明してくれたのを覚えています。
以前ブログにも書きましたが、母もリケジョだったので私にそのような話をしたのだと思います。浸透圧を考えることで水分がどのように移行するか想像がつくので、手順の理解に役立つというのです。
この、料理で浸透圧を意識するという考え方は別に母のオリジナルでも何でもなく、結構一般的にも言われていることです。
浸透圧について軽くおさらいしよう!
浸透圧とは?
浸透圧と言われて、このページを閉じたくなる方は多くいらっしゃると思います。そんなの習わなかったよ、とか忘れたよ、とかそもそも化学は習っていない、という人のために簡単に浸透圧を説明してみたいと思います。
浸透圧とは、ざっくり言うと、下記のように半透膜と言う細胞の膜を通して高張(濃い液)と低張(薄い液)が隣り合わせた時、分子同士の数の比率を近づけるように、水が薄い方から濃い方に移動する現象のことです。
画像引用元:漬物や梅酒をおいしくする 浸透圧と砂糖の関係|株式会社パールエース (pearlace.co.jp)
料理と浸透圧、正しい表現と正しくない表現
浸透圧と料理の正しい表現
この料理と浸透圧の関係は結構よく話題にされる話で、例えばサラダを浸透圧を使ってシャキシャキ食感にするために水に浸す…などは料理と浸透圧において正しい表現です。
因みに水に浸すと食感は良くなりますが、例えば千切りキャベツのように断面積が相対的に大きいものだと、長く水に浸すと水溶性のビタミンCなどの栄養素が断面から無駄に流れ出てしまい、栄養学的にはお勧めできません。
浸透圧と料理の間違った表現
煮物の味が浸透圧で浸み込む?
たまに、煮物の味が浸透圧によって浸み込む、という表現をされている料理サイトなどがあります。これは正しい表現ではありません。
上の図のように浸透圧で半透膜を経由して移動するのは理論上水分子のみですから、浸透圧で水分子より大きい塩や砂糖やうまみ成分が易々と移動してしまうような記述は間違いなのです。浸透圧を理解していない人がこの表現を見ると、物質が移動することが浸透圧と誤解しかねません。
塩などはイオン化しても相当半径が小さいので半透膜を少し通り抜けてしまうかもしれませんが、それは浸透圧の説明とは別の話です。この煮物の話を正確に説明すると、高い熱を加えたことで食材の半透膜が機能しなくなったために塩や砂糖やうまみ成分が移動して、味が浸みこんだ、という表現が正しいでしょう。
いずれにしろ煮物は外側の煮汁が高張液で内側の食材が低張液のはずですから浸透圧で説明できるのは、ある一定温度以下で食材の水分が外に出ていくことだけです。煮物の味が染みることはその調理の過程の高い熱により、細胞膜の半透性が失われたために、うまみ成分が移動してしまう、拡散が原因なのです。
浸透圧で魚の臭みが取れる?
魚の臭みを取るために塩を振るのは浸透圧を利用しているのだという記述も結構多くの料理サイトで目にします。こういう表現も誤解を招くというか、ちょっと説明が足りない表現だと思います。上記でも述べたように細胞の半透膜を通過するのは基本的に水分子のみです。
この場合、魚の生臭さの原因であるアンモニアやトリメチルアミンが偶然にも水より分子が小さい為、半透膜を水分と一緒に通過できるので出て行けるのです。決して何でもかんでも水に溶けて細胞の外に出ていくわけではありません。
まとめ
今日はちょっとマニアックな話だったかもしれません。しかし料理サイトを見ていると、こういう理論的に間違った説明や、大筋には間違っていないけれども誤解を招く表現が、散見していたのでいつも気になっていました。
料理の手順と言うのは意味も無く覚えようとすればすぐに忘れてしまいます。どんなものでもその仕組みを理解し、納得すると深く記憶に定着して覚えることができます。
どうしてこの料理の手順はこうなるのだろうと疑問に思った時、調べてみるととても面白い理由があったりするものです。ちょっとしたトリビアを見つけた時など子供に教えてあげたりもできるので、疑問に思った事は迷わずググる習慣を身につけると、もの知りお母さんになれるのでお勧めです。