激辛料理は慣れる?食べ続けると平気になる不思議
私は小さい頃から比較的辛い物に強いのですが、その辛い物への強さが、生まれつきのものなのか慣れによるものなのか、気になる人もいるのではないでしょうか?
今日はその辛味のメカニズムについて話をしていきたいと思います。
何でも麻辣醤をかけてしまう娘
私事ですが、娘が最近何にでも麻辣醤(マーラージャン)をかけるようになったことが、私が辛味について深くリサーチしたくなった一つの要因です。
麻辣醤については以前ブログにも書きましたが、我が家では主に麻婆豆腐を作るときに使用しています。
数ある中華辛味調味料の中でも特に辛味の強い麻辣醤ですが、娘はこれが好きで、チャーハンやら焼きそばやらにガッツリかけるので、私は個人的に少し心配しています。
何故なら、辛味というのは辛味耐性が強くなっても胃腸が追いつかなくてお腹を下すことがあるからです。
味覚に問題?カプサイシンの食べ過ぎは味蕾を減らす?
我々は口にしたものの味を、舌の付け根にある「味蕾(みらい)」という部分で感じとっています。
歳を重ねるにつれてその数は減っていきますが、カプサイシンの食べ過ぎで味蕾が破壊されて減ってしまうという説があります。
味蕾が壊れるということは、味を感じにくくなる、つまり味覚障害の原因になるのだ、というのがこの説です。
激辛好きは味覚障害(味覚異常)か?
このことから激辛好きの人に対して味覚障害だとか味覚異常だとか言う人がいます。
しかし、私はこの意見に懐疑的です。
そもそも味蕾の寿命は約10.5日と比較的短く、味蕾の味細胞は次々と新しい細胞に入れ替っていくからです。
【参考URL】
味細胞の寿命は短い (chubu-gu.ac.jp)
そして、下記でも述べますが、そもそも辛味というのは味覚ではありません。
日本人から見て激辛を好むインドやブータン、韓国の人は皆味覚障害なのでしょうか?それはあまりにも失礼な見解だと思います。
医学的には味覚障害は亜鉛不足などが関係しますが、唯一気にするのであれば、激辛料理の食べ過ぎなどでお腹を下し、亜鉛不足になることでしょう。
亜鉛はただでさえ吸収されづらく、不足しやすいミネラルになるのでこの点は注意しなければなりません。
辛味耐性は生まれつきと慣れの両方がある
辛味の強さと受容体
辛さというのはTRPV1(トリップ・ブイワン)という受容体が関係していることがわかっています。
この辛味センサーであるTRPV1を研究し、発見したデヴィッド・ジュリアスが、2021年にノーベル生理学・医学賞を受賞したことは、医学生理学に興味のある方ならご存じのニュースかもしれません。
TRPV1は物理的な温度に反応するタンパク質ですが、カプサイシンのような辛さを持つ分子とも結合し、辛味の刺激(痛みや熱さ)を感じるのです。
生まれつきの受容体の数によって辛さに強い人
研究者たちはTRPV1をどれぐらい生成できるかは、遺伝子によって決まっていることを発見しました。
そのため、人によって受容体の数が異なってしまい、生まれつき辛さに敏感な人や鈍感な人がいるわけです。
慣れによって辛さに強くなった人
遺伝的要因の一方で、TRPV1をどれほど頻繁に使っているかも辛味耐性に関係し、頻度が多ければ感度は鈍くなっていくということが、多くの研究で明らかになっています。
ですから、辛み成分であるカプサイシンを日頃多く食べている人は、より多くのカプサイシンをとらないと同じ辛さを感じられなくなっていくのです。
辛味料理が病みつきになる理由
辛味は味覚では無く痛みである事実
味覚には5種類あるとされており、その5つは、甘味・酸味・塩味・苦み・旨味です。
上記でも述べましたが、実は辛味は味覚では無く熱いという感覚に分類されます。
辛味を食べると上記のTRPV1が反応しますが、TRPV1は元来43度以上の熱に反応する受容体であり、この受容体と辛み成分のカプサイシンが結合してしまうことから、体が辛味を熱だと感知してしまうのです。
この機構はメントールによる冷刺激とよく似ていると言われています。
唐辛子たっぷりの料理を食べて、「ヒリヒリする!痛い!」と表現する人がいますが、その本能的な感覚は正しいのです。
痛みを抑える成分が快楽成分という事実
辛味は、味ではなく、痛みであると説明しました。
この痛みを感じることで身体は、それを抑えようとして、β-エンドルフィンを出すということがわかっています。
β-エンドルフィンは別名脳内麻薬と言われている成分で、痛みを抑える働きと、強い快感を引き起こす働きがある成分です。
痛みには慣れがありますが、辛さからくる痛みに慣れてくると、痛みだけが薄れ、快楽の影響のみが強くなります。
これが辛いものに対する、いわゆる“病みつき”という状態なのです。
辛味に慣れていない人が辛味を和らげるには
乳製品が辛味刺激対策に良い理由
唐辛子の辛み成分であるカプサイシンは、乳製品に含まれるカゼインと結合し、辛さを和らげることがわかっています。
激辛インドカレーとラッシー(乳製品)の組み合わせが鉄板なのはここからきているのでしょう。
また、カゼインは胃腸にも優しく、胃腸の弱い方が辛いものを食べるときなどにもお勧めの成分になります。
辛い物を食べた時水を飲むと逆効果である理由
カプサイシンは脂溶性の物質なので、辛いと感じて水を飲んだとしても水溶性でない為それを洗い流すことができず、水に溶けないカプサイシンが口内に広がって逆効果になってしまいます。
冷水は飲んだ瞬間だけ口の中が冷えるので、一時的にカプサイシンの働きを抑えられたように感じるかもしれませんが、のど元を過ぎ去った瞬間、再び辛さが襲ってきます。
このように、水は辛味を和らげる効果がないだけでなく、カプサイシンがくっついた範囲を口全体に広げて、痛みをさらに悪化させてしまうので注意しましょう。
まとめ
いかがでしたか?
人が徐々に激辛料理に慣れてくる理由は、TRIV1という受容体感受性と関係していることをご理解いただけたでしょうか?
また、辛味は痛みであり、痛みを感じるとβ‐エンドルフィンという痛み抑制・快楽作用のある物質が出てくること、そして辛味に慣れると快楽作用だけが多く残るので辛味は病みつきになるということを紹介しました。
激辛好きの人はついつい何にでもスパイスをかけがちですが、それは味覚障害というより、快楽のループにハマっている状態であるということがわかると思います。
しかし辛味の快楽にばかり関心がいって、他の素晴らしい味覚に興味がなくなっていくのはなんだか悲しい気がします。
辛み成分の過剰摂取は体を崩すこともありますから、ほどほどにして、辛味と味覚の両方を楽しみながら食事をしていくことが大切でしょう。